脂質異常症について

脂質異常症は、以前は高脂血症と呼ばれていた病気ですが少し基準が変わりました。脂質異常症とは、血液中に含まれる「悪玉」のLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)などの脂質が基準値よりも多い状態や、「善玉」のHDLコレステロールが基準値より低い状態のことです。動脈硬化を引き起こしやすくなり、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなります。
脂質異常症は高血圧や糖尿病と比べてあまり知られていませんが、患者さまの数は年々増えています。また、脂質異常症を疑われる人は加齢に伴って増加し、女性の方が男性よりも多いです。
多くの場合、脂質異常症は症状が現れることはありません。自覚症状がないので放置してしまいがちですが、これが脂質異常症の怖いところで、気付かないうちに動脈硬化が進行してしまうのです。

脂質異常症の原因

脂質異常症の原因は、過食、運動不足、肥満、喫煙、アルコールの過剰摂取、ストレスなどの生活習慣が大きく関係していると言われています。特に、高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症の場合には食生活が直接的な原因となりやすいです。脂質異常症になりやすい食生活とは、お肉や乳製品などの動物性脂肪の多い食品や、鶏卵や魚卵などのコレステロールを多く含む食品を過剰に摂取していたり、食べ過ぎによる慢性的なカロリー過多に陥っていたりする状態などがあります。
一方、善玉のHDLコレステロールが減ってしまう原因として、運動不足、肥満、喫煙などが指摘されています。バランスの良い食事を心がけるだけでなく、生活習慣にも注意が必要です。
また、脂質異常症の原因の中に、上記以外にも「家族性高コレステロール血症」という遺伝的な要因によるものやホルモンの分泌異常によるものがあります。この場合には、早期に病院で受診して医師による治療や指導が必要となります。

脂質異常症の診断基準

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012」(日本動脈硬化学会)では、脂質異常症の診断基準は以下の通りになっています。
脂質異常症の診断基準

出典: 日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版 2012日本動脈硬化学会:14,2012よりファイザーが作図

2006年までの診断基準では、LDL(悪玉)とHDL(善玉)コレステロールの区別がありませんでしたが、2012年の新しい診断基準によって、脂質異常症が3つタイプへと明確になりました。
診断基準にある数値が基本となりますが、LDL(悪玉)コレステロール値については、他に危険因子(喫煙、高血圧、糖尿病など)がある場合には、さらに厳しい数値が目標値として設定され、治療方針が決定されます。
実際の治療方針は患者さまによって状態が異なるため、リスクを細かく考慮しながら医師が判断しますので、医師と決めた目標・治療方針に従うようにしましょう。

脂質異常症の種類

脂質異常症は、上記でも申し上げましたが、血液中で基準値を超える、もしくは下回る脂質の種類によって3つのタイプに分類されています。

・高LDLコレステロール血症(悪玉コレステロールが多いタイプ)
・低コレステロール血症(善玉コレステロールが少ないタイプ)
・高トリグリセライド血症(中性脂肪が多いタイプ)

また、脂質異常症の分類の方法として、原因で分ける場合もあります。生活習慣病の乱れや家族性高コレステロール血症のような遺伝的な要因で起こるものを「原発性」、ホルモンの分泌異常や他の疾患、薬によって起こるものを「続発性」と分類します。
続発性のホルモンの分泌異常では、甲状腺機能低下症や副腎皮質ホルモン分泌異常などがあげられます。

脂質異常症と高血圧・糖尿病

脂質異常症は、高血圧や糖尿病が合併している場合、リスクが大きくなるので、より注意が必要です。高血圧も糖尿病も血管や血液などの循環器に関わる病気であることを理解しておく必要があります。
血圧が高いと動脈に強い圧力がかかり続けることで血管の内壁が傷つきやすくなります。その傷ついた部分にLDLコレステロールが入り込むことで、血管内に破れやすいコブを作る原因になります。このコブが破れると修復のために血小板が集まり血管が詰まってしまいます。脳であれば脳梗塞、心臓であれば心筋梗塞を引き起こします。
また、血糖値が高い状態が続くとLDL(悪玉)コレステロールが酸化されたり、小さくなってしまい(超悪玉コレステロール)、より血管壁に入り込みやすい状態になり、動脈硬化が進行します。

動脈硬化の危険因子

脂質異常症は動脈硬化の原因になりますが、他にも動脈硬化への危険因子があります。この危険因子の数によって、脂質異常症の目標数値が変わってくるので、ご紹介させていただきます。

【動脈硬化の危険因子】
1.高血圧
2.血液中の脂質の異常
3.糖尿病
4.加齢(男性:45歳以上、女性:閉経後)
5.喫煙
6.肥満
7.運動不足
8.ストレス
9.偏った食生活
10.嗜好品(アルコール)

これらの危険因子の数が多いほど、動脈硬化の進行や、動脈硬化による病気の発症へのリスクが高まります。重大な疾患を招く前に、できることから少しずつ危険因子の数を減らせるようにしていきましょう。

脂質異常症の治療について

脂質異常症の治療は、食事療法と運動療法から開始することが一般的です。薬物治療は、食事療法と運動療法を行っても目標値が達成できない場合や、持っている危険因子が多く動脈硬化や動脈硬化による疾患へのリスクが高い場合に併用されます。
薬物治療を始めたからと行って、食事療法や運動療法をやめてしまってはいけません。生活習慣を改善することは、糖尿病や高血圧などの他の生活習慣病にも効果的であり、薬の効果もより期待できるようになります。
長期にわたる生活習慣の乱れで発症した脂質異常症は、治療にも長い時間を要します。なので、生活習慣の改善はもちろんですが、薬の服用に関しては必ず医師や薬剤師の指示通りに服用するようにしてください。一時的に検査値が正常に近づいても、それは薬の効果によるものなので、薬をやめてしまうと元に戻ってしまいます。

脂質異常症の予防・改善

脂質異常症の予防・改善(食事療法・運動療法含む)は下記のようなものがあります。具体的な治療方法に関しては医師や薬剤師、管理栄養士と相談して、指示に従うようにしましょう。予防に関しては、下記を実行することで生活習慣病全般の発症リスクの軽減につながります。

1.食生活に気をつける
脂質異常症の予防・改善の目標は、コレステロール値を正常範囲に収め、血液をサラサラにすることです。その基本となるのが食生活です。HDL(悪玉)コレステロール値や中性脂肪が高い場合、食生活が大きな要因となっていますので、改善による効果も期待できます。食生活については後ほど詳しくご説明します。

2.タバコをやめる
喫煙はHDL(善玉)コレステロールを減らすだけでなく、悪玉(LDL)コレステロールの酸化を促進し、高血圧や動脈硬化の直接的な原因となりやすいので、禁煙する機会を作るようにしていきましょう。

3.ストレスを解消する
ストレスも様々な病気に関わると言われています。ストレスを受けた時に分泌されるホルモンには、コレステロールを増やす作用があります。人間関係や仕事などで問題を抱えているときは、意識的にストレスがたまらないようにすることが大切です。気分転換をしたり、マッサージや温泉などでリラックスしたり、睡眠をしっかりとることなどが大切です。

4.適度な運動をする
脂質異常症の原因の1つである運動不足は、日頃の過ごし方でも改善されることがあります。1日の歩数が2000歩未満の人と比べると、1万歩以上歩く人は10%以上もHDL(善玉)コレステロールが多くなっいるというデータも厚生労働省から発表されています。
運動は、低HDLコレステロール血症の人はもちろんですが、全てのタイプの脂質異常症の予防や改善に効果が期待できます。
1日15分程度のウォーキングでも良いので週に4日程度、継続することが大切です。

※心臓病などの循環器系の疾患をお持ちの方は医師と相談して運動を取り入れるようにしましょう。

脂質異常症のための食生活改善

脂質異常症の予防・改善のためには食生活に気を使うことに大きな意味があります。食生活をいきなり全て変えるのはストレスの原因にもなりますので、医師や管理栄養士から制限されない場合は無理をしないようにしましょう。
短期間だけ食生活をガラッと変えてまた戻ってしまうよりも、少しずつ食生活を改善して継続することの方がよっぽど重要です。下記の項目の中から少しずつ出来ることから始めていきましょう。

主食をきちんと食べる
主食のごはんやパンには、脂質が少ないので、まずは主食を適量食べるようにしましょう。炭水化物抜きダイエットなどが話題になったりしていますが、おかずや肉類、揚げ物などの高カロリーのメニューの割合が増えることでカロリーや脂質の摂取過多になりやすくなります。
もちろん、ごはんを食べ過ぎてカロリー過多になるのは避けなければいけませんが、「唐揚げ2個とごはん軽く1膳がほぼ同じエネルギー」だと考えると、脂質の少ないごはんを食べる方が良いでしょう。

新鮮な青魚を多く食べる
お肉などの動物性脂肪には、LDL(悪玉)コレステロールを増やす働きがありますが、魚などに含まれる動物性脂肪(常温でもサラサラした液体の油)には、LDL(悪玉)コレステロールを減らす働きがあります。
耳にしたことはある方も多いかと思いますが、その代表がDHAやEPAで、青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に多く含まれています。
青魚以外の魚にも含まれていますので、普段から魚を食べる習慣をつけることで、自然とLDL(悪玉)コレステロールを下げる働きのあるDHAなどを摂取することができます。

植物性タンパク質と食物繊維を摂る
畑の肉と呼ばれる大豆などには多くの植物性タンパク質が含まれており、血液中のコレステロールや中性脂肪を減らす働きがあります。豆腐や納豆などの大豆食品を普段の食事に取り入れることで、改善が期待できます。
また、食物繊維には、コレステロールや中性脂肪が腸内で吸収されるのを妨げる働きがあります。現代の日本人は食物繊維の摂取が不足しているので、意識的に取り入れるようにしましょう。食物繊維は、根菜類、きのこ類、野菜類、豆類、海藻類などに多く含まれています。
さらに、食物繊維の多い食品は優秀で、カロリーが低いので1品追加してもカロリー過多になりにくく、むしろ満足感が得られるため他の高カロリーの料理の食べる量を減らすことができます。

ビタミン類をたくさん摂る
美容でも有名ですが、抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEはLDL(悪玉)コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を予防する働きがあります。これらのビタミンは野菜や果物に多く含まれており、特にトマトやピーマンなどの緑黄色野菜に多く含まれています。
それだけでなく、野菜や果物を食べることで、血液をサラサラにするカリウムも摂取でき、高血圧の予防にもつながりますので、積極的に取り入れましょう。
※糖尿病や腎臓に疾患のある方は医師・管理栄養士の指示に従うようにしてください。

動物性脂肪を控える
脂質異常症の大きな原因でもあるお肉などの動物性脂肪ですが、食の欧米化によって食事に占める割合が多くなっています。お肉や揚げ物、ファーストフードなどの高カロリーの食品には要注意です。
LDL(悪玉)コレステロールを増やす原因となる、お肉などの動物性脂肪を控えるコツとしては、それ以外のものを積極的に食べるようにすることです。野菜や魚などを積極的に食べることで、必然的にお肉などを食べる頻度が少なくなります。しかし、どうしてもお肉が食べたくなるときもあるでしょう。その場合は、「揚げ物は避ける」「ロースよりもヒレ」「鶏肉の皮は食べない」などの工夫だけでも脂質をかなり減らすことができます。

コレステロールが多い食品を控える
鶏卵や魚卵などのコレステロールの多い食品は、食べ過ぎないようにしましょう。体質にもよりますが、コレステロール値が上がりやすい人は要注意です。
ただし、これらの食品には、重要な栄養素がたくさん含まれています。鶏卵は以前「完全食品」と呼ばれていたほど栄養価が高いので、全く食べないのはもったいないです。あくまでも食べ過ぎないということが大切です。

アルコールは控える
アルコールの飲みすぎは良くありません。しかし、適量のアルコール摂取はHDL(善玉)コレステロールを増やす効果があると言われています。適量とは、1日当たりビールなら大瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度までです。アルコールを摂取する上で、注意することがあります。それは、おつまみや揚げ物など、食品でカロリーや脂質を摂りすぎてしまうことです。アルコールそのものにカロリーがあるのはもちろんですが、食欲を増進させる効果もあるので、意識して食べる量を調整することが大切です。

腹八分目にする
満腹まで食べたときは、ほとんどの場合カロリーオーバーだと考えてください。満腹まで食べることが習慣になっていると、エネルギーが余って中性脂肪となり、どんどん蓄積されてしまいます。肥満を防ぐためにも、「ゆっくり食べて」「よく噛んで」「お箸を休めて」腹八分目を意識しましょう。
今まで満腹まで食べていた人の場合、野菜を食べる量を増やして腹八分目を意識するだけで、かなり食生活が改善されるでしょう。何から始めれば良いか分からない人は、まずこの「野菜を食べる量を増やす」「腹八分目を意識する」から始めてみてはいかがでしょうか。
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